エクスキューズ・ミー

「言い訳」をテーマに書いています。

「風邪」への言い訳

 何かを得るためには何かを差し出さなければいけない。錬金術漫画で知った「等価交換」という決まり事である。
 金銭を得る為に時間を差し出して労働する。時給、日給、月給などの場合は、そのまま等価交換という言葉が当てはまると思う。
 歩合制、となるとまた話は違ってくる。この場合は「成果」と金銭を交換することになる。
 なぜ金の話から始めたかというと、これが現代の社会生活においては基本であると思うからだ。こうして得た金を更に物品や資源と交換することによって我々は暮らしている。
 
 給与を何に遣うかは個々人の自由ではあるのだが、誰だって好きなことに遣いたいと思うのは当たり前だ。服を買う、映画を観る、旅行する、ゲームアプリに課金する……許されるならそうしたい。
 しかし、現実はそう簡単にはいかない。生活するために最低限必要な物資や光熱費、家賃など、黙っていても給与の一部は消えていく。
 
 風邪の話である。
 つらつらと等価交換などという言葉を持ち出して語った全てを放り投げたくなるほどに、一切何の得もしない風邪!
 風邪を引くことによって仕事を休む。休んでも碌に動けないので寝ているしかない。平日の昼が咳をするだけで過ぎていく……。
 病みたくて病む人なんていない、はずだ。ファションで病んでいると言い張る者を私は認めない。誰だって健康体でいることを望んでいる。

 それでも、人は時に風邪を引く。睡眠不足、栄養不足、過労、理由は色々あるだろう。
 しかし、電話で上司に病欠を伝える際にわざとらしく弱々しい声で話してしまうのは共通のものであってほしいと思うのだ。風邪を引くたびにそう思いながら通話ボタンを押している。

 どんなに医療が発達しようとも、手をパァン!と鳴らして病が治る日は永遠に来ないと思う。
 そんな未来がもしも来た場合、我々は風邪と引き換えに何を失うことになるのか……寒気がする。