エクスキューズ・ミー

「言い訳」をテーマに書いています。

「左耳」への言い訳

耳に穴をあけると痛い。
痛覚のある生き物にとっては当たり前の感覚だ。
痛いのは嫌だ。なぜなら痛いからだ。

誕生月よりはだいぶ前だった。冬なら空気が乾燥しているぶん都合がいいと聞いたからだった。
耳に穴をあけると決めた。
理由はひとつではないし、思いつく幾つかのうちのどれでもないのかもしれない。
痛いのは嫌だ。痛いのは嫌だ、けれど。
そのときの私は、それをすることによって何者かになることを決めたのだ。もしくは、そのときの私を辞めることを決めたのだ。

耳に穴をあけた。
思ったほど痛みはなかったし、何かが劇的に変わるということもなかった。
けれど、その瞬間から、私は何かを目指し始めたのだ。何かから逃げ始めたのだ。
行き着く先は分からない。一周まわって戻ってくるのかもしれない。
ほうっておけば塞がってしまう小さな穴だ。その小さな穴を、自分の身体ではない何かで埋めるのだ。
今はもう痛みはない。痛みはないけれど、小さな穴はあいたままだ。

さぁ、今日はどうやって埋めようか。
穴のあいた私と、穴だらけの世界と、どう付き合っていこうか。